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ファーウェイにおけるデジタル変革

2018.04.10

新時代のITシステムに求められる3つの変化

ファーウェイ 最高情報責任者
クオリティ・ビジネスプロセス・IT管理部門プレジデント
陶景文(タオ・ジンウェン)

中央集権型から分散型へ 管理モデルの変化をITで支える

世界中の産業がデジタル変革を通じて持続可能なビジネスの成長を目指すなか、ファーウェイが自社のデジタル変革にどう取り組んできたかを語る機会は少なかった。グローバルに複数の事業を展開するファーウェイは、デジタル変革の課題と成果を理解する格好の事例となる。18万人の従業員が働き、170以上の国と地域に900以上のオフィス、15か所のR&D拠点、36の共同イノベーションセンターを持ち、6万以上のサプライヤーを含む数百万のパートナーを擁するファーウェイは、これほど巨大で複雑な組織をどう運営しているのだろうか?

過去30年間、ファーウェイは常にビジネス変革を実践し、プロセスとITの実装を進めてきた。こうした努力が実を結び、安定した成長を続け、中国から世界へ、単一事業から複数の事業領域へと事業の拡大を実現してきた。この過程で、数々のボトルネックや課題に直面した。
クラウドへの移行とサービス指向の運営は目標を達成するための手段にすぎない。デジタル変革の真の目標は、社内外のコンプライアンスを徹底し、事業の発展を促進し、運営効率を高めることだ。言い換えれば、売上と利益を増加させると同時に、能力と効率を向上するということである。この目標はあらゆる企業のデジタル変革に当てはまるものだろう。

世界中で事業を展開するファーウェイにとって、事業の複雑さと不確定さは増すばかりだ。そのため、すべてのビジネスプロセスを中央集権型で管理していては、将来の発展に向けた要件を満たすことができない。これからの管理モデルは、現場の最前線にいる従業員が効率的な意思決定の権限を持ち、彼らがリードする業務を大規模なプラットフォームで支えるといったものでなければならない。こうした分散型の管理モデルにおいては、業務プロセスやITアーキテクチャも従来とは異なったものになる。それには、主に次の3つの変化が求められる。

1. 機能の重視からユーザー体験の重視へ

デジタル変革はビジネスの戦略目標と連動したものでなければならない。そのためにファーウェイは、まず自社のビジネスモデルをユーザー体験に基づくものに変革する必要がある。

これまで、ファーウェイのITチームは各事業部からの要求に受動的で、一連の業務プロセスを実行する機能重視のITシステムを提供していただけだった。その結果、現場の従業員は自ら必要なプロセスに対応するIT機能を探しださなければならず、1つのタスクを完了するのに10以上ものITシステムを使わなければならないケースも多かった。どのアプリケーションも業務上求められる機能を果たしてはいたものの、ユーザー体験は満足のいくものではなかった。
今後は、ユーザー体験とビジネスシナリオに基づいたサービス指向のプラットフォームを構築し、複数のビジネスシナリオにおける現場の要求に迅速に対応することが求められる。ユーザー志向のイノベーションを強みとするファーウェイにとって、社内ユーザーにも優れたユーザー体験を提供することは最優先事項だ。

2. クローズドなシステムからオープンなアーキテクチャへ

多大なコストをかけてIT設備をアップグレードしたものの、従来型のクローズドなサイロ式アーキテクチャのためにシステムの相互運用や情報共有がうまくいかずに失望した経験のあるCIOは多いだろう。これでは事業部からの多様な要求を満たすことはできない。ファーウェイも他社と同様、最初に垂直統合型システムを構築し、その後水平統合を行うというアプローチを取ってきた。しかし、その結果ITシステムはきわめて複雑になり、事業部には使いづらいものとなってしまっていた。システムとしては高速のはずだが、ユーザーからすればビジネス上のニーズに対応するのに時間がかかると思われていた。
ビジネスニーズへの迅速な対応を実現するには、従来型のクローズドなITアーキテクチャをサービス指向のオープンなものに変えることが喫緊の課題となる。

3. 社内管理のためのシステムからエンドツーエンドのサービスシステムへ

もう1つの課題は、社内の管理のためのシステムから、ユーザーとつながったリアルタイムのサービスシステムへと変えることだ。現在のITシステムは社外のネットワークとの接続性が十分ではない。パートナー企業がファーウェイのプロジェクトに参加し、最新情報を得る場合、当社のシステムにどのようにアクセスすればよいだろうか? ファーウェイのサプライヤーとなることを希望する革新的な技術を持った企業が、自社製品の情報を当社とどのように共有すればよいだろうか? お客様が当社製品の最新情報を得るにはどうしたらよいか? こうした問題は多くの企業に共通している。リアルタイムにユーザーやパートナーとつながり、オンラインでエンドツーエンドの業務プロセスを自動処理できるサービスシステムが求められているのだ。

2019年までに全事業領域で変革を目指す

こうした課題を克服するのは容易なことではない。まず、ITアーキテクチャを多層化し、体験とサービスを重視して深いレベルで機能を切り分ける必要がある。
例えば、ITシステムが自動的にユーザーを特定し、使用しているデバイスや居場所、アクセス方法、シナリオにかかわらず、常にユーザーごとに適切なポータルを表示する。これにより、ユーザーが情報を探すのではなく、システム側からそれぞれのユーザーに、最適な業務プロセス、必要とされる情報、役立つサポートを適切なタイミングで提供できるようにする。
ファーウェイはこうした機能の実現を2019年までに全事業領域で完了することを目指している。現在はまだこの3か年計画の半ばだが、進捗は順調だ。

多岐にわたる業務で変革を実現

現在進行中のこの変革プランの以前から、ファーウェイはR&D、デリバリー、製造、物流などの業務で多くのITアップグレードを実行し、成果を上げてきた。


・R&Dのクラウド移行でグローバルな協業を実現
R&Dはファーウェイ内で最大の部門であり、18万人の従業員のうち45%が従事している。IT部門は、製品開発に用いられるプロセス、ツール、データ、コンパイルの環境を分離し、テスト向けクラウド、コンパイル向けクラウド、開発者コミュニティなどのサービスをR&Dの全プロセスにわたって提供。ソフトウェアやハードウェアの開発から生産までの時間を大幅に短縮している。

例えば、スマートフォンの新製品開発時には以前はテスト設備の申請からIT環境の構築までさまざまなタスクに数か月かかっていたが、新たなテストクラウドサービスを使えばテスト環境の準備がわずか数日で済む。スマートフォン向けOSのコンパイルでも、これまではモデルごとに異なるプロセスがあり、多数のモデルの処理には何時間もかかっていたが、共通のコンパイルプラットフォームでは全プロセスが数分で完了する。


・ワンストップのプラットフォームでサービスデリバリーの効率を向上
デリバリーサービスには数多くの業務が含まれ、担当者は20以上のITシステムを使用しなければならなかった。現在は、リソース管理、外注管理、サイト承認、検収、テクニカルサポート、人員管理など、必要な業務をすべて1つのポータルに集約したサービスデリバリープラットフォームにより、デリバリーの効率が大幅に向上している。さらに、中国・西安に設置されたデリバリーコマンドセンターでは、管理者が世界各地のプロジェクトの進捗や各サイトの現況を大画面で確認できる。オンラインでリアルタイムに可視化された管理を実現し、現場での効率的なサービスの提供ができるようになった。


・リアルタイムな意思決定を可能にするグローバル製造業務コマンドセンター
ファーウェイのグローバル製造業務コマンドセンターでは、世界各地のサプライヤーの状況や製造要件をサービス指向で統合し、ビジネスシナリオに沿ったリアルタイムな意思決定システムを構築して、品質予測を行っている。例えば、製品のテスト段階で品質問題が見つかると、製造工程にタイムリーに警告が発せられる。ビッグデータ分析により、材料ロットの管理も効率的に行われている。


・可視化された物流プラットフォームでグローバル物流管理の効率を向上
世界各地に貨物を輸送するファーウェイの巨大な物流ネットワークでは、物流管理の効率化が重要な課題となっている。そこで世界中に点在する100以上の倉庫をリアルタイムで監視し、出入庫を目に見える形で管理できる可視化された物流プラットフォームを構築。物流管理の大幅な改善を実現し、CIAG(帳簿在庫と実在庫の一致)率を大きく向上させた。


・より“つながった”オフィスコラボレーションで日常業務を簡素化
デバイス、情報、ビジネス、チーム間のスムーズな連携を図るため、ファーウェイのITチームは昨年、社内向け業務アプリ『WeLink』を構築した。現在17万人の従業員がこのアプリを使って会議の開催やサービスアプリの利用、共有ファイルの閲覧を行い、チームメンバーとの居場所にとらわれない効率的なコラボレーションを実現している。


マルチクラウド環境は必須 他社サービスも積極的に併用

クラウド移行に際し、プライベート、パブリック、ハイブリッドのうちどのクラウドを使うべきか悩む企業は多い。しかし、どの企業も結局は複数のクラウドを使わざるをえないだろう。コアな情報資産を守るためには、コア業務の特性に合ったクラウドに移行させなければならない。また、自社のクラウドがいくら優れたものであっても、他社のパブリッククラウドにはまた違った利点がある。

変化の大きいビジネスの要求に即座に応え、多岐にわたる業務に対応し、世界中でスピーディーなビジネス展開を行うためにも、複数のパブリッククラウドサービスの活用は、規模を問わずあらゆる企業にとって有用といえる。機能、信頼性、セキュリティの要件さえ満たせば、自社製、他社製を問わず、どんなITリソースも使えるようにしておいたほうが、柔軟性とコスト効率を上げられるのだ。

ファーウェイは、グローバルな業務用ネットワーク構築において、Office 365やビデオ会議サービス、微信(WeChat)など多数のパブリッククラウドサービスを活用している。自社でもIaaSやPaaSを提供しているが、それでも他社の同様のサービスを使ったほうが迅速なサービス提供が可能となる分野もある。

マルチクラウドのITインフラでリソースの柔軟な配分を実現

マルチクラウド環境を構築するにあたっては、以下の3点が重要になる。

・グローバルで一元化されたITリソース管理:これにより、クラウド間でのリソースの移動が可能になる。例えば、世界各地にある複数の研究センター間で、仮想マシンやサービスがどこから提供されているかを気にすることなく共同で製品開発ができるようになる。ファーウェイでは、現状、試験的なITリソース調整機能によって物理マシンとクラウドプラットフォームの管理を行っている。

・一元化されたクラウド統合プラットフォーム:アプリケーション層やデータ層で複数のパブリッククラウドサービスにアクセスすれば、サービス利用時のITシステムへの接続は1回で済む。

・マルチクラウド環境でのコアな情報資産の保護:パブリッククラウドの使用には、複数のクラウドをまたぐセキュリティシステムの構築が必要になる。企業の情報資産保護はきわめて重要であり、マルチクラウド環境では処理速度を多少犠牲にしてでもセキュリティ管理を徹底しなければならない。

自社の経験を活かし企業のデジタル変革を推進

最後に、デジタル変革を実践するにあたって注意すべき点をいくつか挙げておきたい。まず、企業のデジタル変革は事業部主導で行わなくてはならない。事業開発にどのようなサポートが必要か、ビジネス上の課題をどう解決すべきかを最も理解しているのは、事業部のマネージャーだからだ。IT部門は重要なイネーブラーとして事業部と緊密に連携し、強力なITプラットフォームの構築によって変革をスピーディーに実行する存在となる。

また、ユーザー体験はデジタル変革の目標であると同時に、変革の成否を測る指標の1つでもある。デジタル変革のさまざまな側面を考慮し、体験の基準を精緻化しておく必要がある。

最後に、デジタル変革は社内の従業員のためだけではなく、お客様、エンドユーザー、パートナー、サプライヤーを含めた、より“つながった”マルチエコシステムプラットフォームの構築を目指さなくてはならない。
ファーウェイは自社の経験をお客様やパートナーと共有し、自らの学びを活かしながら、今後もさらに多くの企業のデジタル変革の実現に尽力していく。