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ファーウェイの人材戦略

2018.04.10

今号の巻頭では、2月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)2018の開幕前日、メディア向けラウンドテーブルで行われたファーウェイの人材に対する考え方と戦略についての講演内容を抜粋してご紹介します。講演したのは、中国人民大学商学院教授で1996年からファーウェイで上級経営コンサルタントを務める黄衛偉(ファン・ウェイウェイ)氏。20年以上にわたってファーウェイの経営改革に携わってきた経験と、ファーウェイ創業者兼CEOの任正非(レン・ジェンフェイ)の経営思想と企業文化への深い理解に基づき、人材への投資に注力するファーウェイの戦略を分析します。


価値の源泉となる人的資本に投資

「資源はいずれは枯渇するが、文化は永遠である。ファーウェイには依存できる天然資源がなく、あるのは社員の頭脳だけだ。これこそが我々にとっての原油、森林、石炭なのである」
創業者でCEOの任正非がかつてこう語ったように、ファーウェイは知的労働と起業家精神を基盤に価値を生み出しています。従業員の45%がR&D、35%がマーケティング、セールス、テクニカルサービスに従事しており、生産ラインの労働力は10%以下に過ぎません。
ファーウェイは上場企業ではないため、価値創造の過程において株主のための資本の増大に重きを置く必要がありません。財務資本の増強よりも、持続可能な利益を生み出す成長の実現を第一の目標に、積極的な採用に加え、従業員のトレーニングや能力開発、チームの生産性向上といった人的資本への投資を最優先しています。こうした投資は短期的にはコストの増大につながりますが、長期的に見ればビジネスチャンスと将来の利益を生み出すものとなります。


中国人民大学商学院教授
黄 衛偉(ファン・ウェイウェイ)

世界中の多様な人材を活用

人材の獲得にあたっては、グローバルな視野で多様な人材を受け入れています。財務部門を例に取ると、同部門にはオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、イェール大学などの名門大学出身者が数百名在籍しており、2016年に採用した新入社員の約38%にあたる340名は海外留学経験のある学生です。こうした優秀な人材には、勤勉で、与えられたチャンスを大切にし、優れた時間管理スキルを備え、チームプレーに長けているといった共通の特長があります。
一方で、抜きんでた強みを持っている人は、往々にして抜きんでた弱みも持っているものです。ファーウェイは全員に完璧であることを求めず、弱みよりも強みに目を向けて責任を与え、その成果を重視します。経験の浅い従業員に管理職を任せる英断をするのもこのためです。
またファーウェイは、業界を牽引し続けるには世界中の人材の力を結集しなければならないということも認識しています。そのため、専門性の高い人材が集まる世界各地にR&Dや調達などの拠点を置き、「人材のあるところにファーウェイあり」という戦略を取っています。
このように多様な強みを持つ人材をオープンに受け入れて活用することは、企業の幅を広げ、創造性を高めることにつながります。


献身を通じて個人の成長を実現

ファーウェイのコアバリューの重要な要素として、企業文化の中核にあるのが、「献身」です。これは、どんな時もチームとして一丸となり、チームのために貢献することを意味します。しかし、チームへの献身は個人の成長を妨げるものではありません。チームが優れた成果を出すには、メンバーのポテンシャルを最大限に引き出す必要があります。したがって、チームワークは個人が成長する場にもなりえるのです。ファーウェイは献身と個性の尊重のバランスをうまく取りながら、チームとして最大の価値を生み出しています。


利益の分配がイノベーションと生産性向上につながる

こうした献身と貢献に対し、ファーウェイは十分な評価と報酬で応えるよう努めています。優秀な人材は自らの人生をより有意義なものにしたいと望んでいることを理解しているからです。ファーウェイの平均年俸は世界のトップICT企業とほぼ同等です。また、従業員持株制度や中国国外の従業員を対象としたTUP(Time-Based Unit Plan)という仕組みを通じ、会社の利益を分配しています。優れた人材に力を発揮してもらえるよう、充実した研究設備や労働環境の整備にも投資を惜しみません。このような惜しみない投資が優れた人材を引き寄せ、イノベーションを促し、生産性と運営効率を上げ、最終的には収益の増加につながっていくのです。


世界を変えるという達成感

ファーウェイの従業員にやりがいをもたらしているのは報酬だけではありません。多くの従業員が「すべての人々、家庭、組織にデジタル化の価値を提供し、完全につながったインテリジェントな世界を実現する」というビジョンに共感し、それに向かって貢献できることを誇りに思っています。自分たちの仕事が世界を変えているという大きな達成感を得ているのです。そして、その過程で創造性を発揮し、チャレンジを乗り越えて成長できることに喜びを感じています。


失敗を恐れないチャレンジが組織の活力を生む

これからのデジタル化したインテリジェントな世界において、企業が競争力を維持し、持続可能な成長を続けるためには、組織の活力をどう保つかがカギになります。創造の過程で失敗があったとしても、組織が活力に満ちていれば、すぐに過ちを訂正し、正しい道に戻り、前に進み続けることができます。ファーウェイが人材への投資に注力する背景には、こうした戦略があるのです。